こぼれ話89 小泉八雲の随想集『仏の畠の落穂』より
ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲は明治30年(1897)にアメリカとイギリスで『Gleanings in Buddha-Fields(仏の畠の落穂)』を出版しました。11編の短編の中には、日野市程久保に伝わる江戸時代の生まれ変わり話を紹介した「The Rebirth of Katsugoro(勝五郎の転生)」が含まれます。八雲がこの作品を、友人雨森信成(あめのもりのぶしげ)の助力を得て執筆した経緯については、11月30日まで開催中の特別展「小泉八雲と勝五郎生まれ変わり物語」で詳しく紹介しています。
同じ本の中の1編に、「A Living God生神(いきがみ))」という作品があります。これは、安政元年(1854)11月、安政南海地震津波が起きたとき、紀州広村(和歌山県有田郡広川町)の浜口梧陵(ヤマサ醤油7代目)が稲むらに火をつけて、漂流者が夜闇の中で迷わないよう目印にしたという実話にもとづく、八雲の創作です。
明治29年(1896)6月に三陸大津波があり、過去の津波での浜口の逸話を知った八雲は、「生神」を創作し、アメリカの雑誌に発表しました。「生神」は浜口五兵衛という老人が津波の襲来を知らせるため、高台にある自分の家の稲むらに火をつけ、火事を心配して集まった村人たちを津波から救い、村人たちから生ける神として感謝された、という内容です。
この話を、広村の隣町で育った小学校教師の中井常蔵は、師範学校時代に英文のテキストで読み、感銘を受けました。文部省が教科書用の教材資料を募集した際、中井はハーンの英文を元に「燃ゆる稲むら」を創作して投稿し、入選します。後に「稲むらの火」と改題され、昭和12年(1937)から22年まで、『小学国語読本 尋常科五学年用』に掲載されました。
東日本大震災を経て、近年再び「稲むらの火」の話は防災学習などで取り上げられる機会が増えています。「勝五郎の転生」もまた、胎内記憶研究者の間で最も早い生まれ変わりの事例と認知されており、八雲の作品が世界に与えた影響力の大きさを感じることができます
広報ひの 令和7年(2025)11月号 掲載
このページに関するお問い合わせ
教育部 郷土資料館
直通電話:042-592-0981
ファクス:042-594-1915
〒191-0042
東京都日野市程久保550
教育部郷土資料館へのお問い合わせは専用フォームをご利用ください。
