日野市におけるワーク・ライフ・バランスの取り組み事例をご紹介します(3)
ワーク・ライフ・バランスの施策を実行するポイントを大学生がお伝えします!
「2024年問題」という言葉をご存知でしょうか。運送業・建設業・医療業界などは長時間労働が常態化していると言われてきました。働き方改革の総仕上げとして「働き方関連法」に基づき、これらの業界に今年4月から残業時間の上限規制がかけられることによって生じる諸問題のことを「2024年問題」といいます。特に物流・運送業界では、ドライバーさんの残業時間の規制により、物流が滞るのではないかと懸念されています。
私たち(日野市・明星大学鵜沢教員とゼミ生・実践女子大学須賀教員とゼミ生)は2021年度より協働し、日野市内の企業、団体などを訪問して、ワーク・ライフ・バランスを中心としたインタビュー調査をする企画を実施してきました。2024年4月を目前にし、今年度は、このような運送業の企業などにも調査させていただきました。「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)」に認定された企業など、職場のワーク・ライフ・バランスに積極的に取り組む企業の様々な取組や工夫を、市内の大学生がご紹介いたします。日野市の企業や市民の皆様に広く知っていただきたいと思っております。ご参考になれば幸いです。
(明星大学 鵜沢由美子、実践女子大学 須賀由紀子)
事例1 働きやすい環境づくりで「健康経営」を推進 NBCメッシュテック
実践女子大学3年 川面未桜、小野柚紀
私たちは、株式会社 NBC メッシュテック様にお話を伺いました。
株式会社 NBC メッシュテック(以下NBCメッシュテック)は、1934年の創業以来、日野市豊田に本社を構え、高い技術力を持って、スクリーン印刷用資材や産業用資材、化成品などの製造・販売・開発を行っているマテリアルカンパニーです。
NBC メッシュテックでは、社員が気持ちよく働くことのできる職場環境が最も大事と考え、健康経営を行っています。2023年には、「健康経営優良法人 2023(大規模法人部門)」に認定されました。
認定の背景には、NBC メッシュテックが所属する日清製粉グループ全体での取り組みが関係しています。たとえば、e-ラーニングや有名ジムトレーナーによるセミナー等を開催し、自己研鑽や運動を支援しています。また、コミュニケーションのとりやすい仕事環境を作ることで、社員が心身ともに健康になるよう工夫しています。社員が仕事だけではなく、仕事以外でも充実した生活を送っているかという点については、社長も重要視しているとお聞きしました。経営のトップ自らワークライフバランス(WLB) について考え行動することが、企業の健康経営に対する意識の向上につながっていると感じました。特にコミュニケーションは相手の健康に配慮することにもつながり、企業一丸となって心身の健康と仕事の両立を実現する力強さが感じられます。
また、タウンホールミーティングでは、社長自ら各事業所を回って、従業員との対話を目的にウェルビーイングについて講義を行っています。それを踏まえて、社員同士でグループディスカッションをするとも伺いました。そのディスカッションの中で、社員自身が求めるビジョンを考えます。そして、ミーティングで出た社員の言葉に耳を傾け、やりがいを持って長く働ける環境づくりを目指しているそうです。ウェルビーイングやワークライフバランスは、実践することが難しいと思うのですが、対話し、お互いを理解しあう仕事環境が重要であることを学びました。
ワークライフバランスに関しても、全社員それぞれが働きやすいよう様々な取り組みや制度をしています。コロナ禍以降、リモートワーク制度を取り入れました。所属する部署にもよりますが、子どもがいる女性社員はリモートワークをよく利用するそうです。有給休暇に関しても取得の促進をしており、全国のメーカー企業の平均有給取得率が 約60%なのに対して、NBC メッシュテックは76%以上になるといいます。育児に関する制度も国の規定制度よりも充実しており、男女問わず小学校4年生までの子どもがいる間は育児短時間勤務が可能で、看護休暇も有給で取得できます。
さらに、地域貢献、地域とのつながりにも力を入れています。活動事例としては、コロナ感染流行時にクラスター防止を目的として自社製品の抗ウィルスマスクを市内の日野市役所・警察署・消防署を始め、保育園などにマスクを寄贈したり、日野市中央図書館とNBCの間にある「東京都の名湧水57選」として「NBC湧水を守る会」による地域の自然環境を守る活動や全社員が定期的に近隣清掃を実施するなど、多種多様な活動を行っています。また、日野・豊田在住の社員が多いということもあり、街を歩いている時は地元の方に会釈をしたり、飲食店などで交流があったりと直接的なつながりも多いといいます。以前は、NBCメッシュテックが主催した盆踊りや催しも地域の皆さんと一緒にやったそうです。地域に支えられている会社である、という考えが根底にあると伺いました。
企業としての考え方の中に、ワークライフバランスの推進があることを、理解することができました。
今回、インタビュー後には敷地内や商品の見学をさせていただきました。建物の近くや敷地内には、湧水や小川が見られ、自然とともに穏やかな環境下で働けることも、健康経営につながっているのではないかと感じました。
事例2 地域愛と働き方の融合 南観光交通株式会社
明星大学3年 木村海斗、植松渓太
私たちは南観光交通株式会社に赴き、社長、昼間のシフトの社員ドライバーさん(男性) 、パート雇用の女性ドライバーさん、明星大学ご出身の運行管理者さんの4名にインタビューを行いました。
南観光交通は東京都日野市に拠点を置く企業であり、最寄り駅である多摩動物公園駅から徒歩約10分の場所に位置しています。1964年10月に設立、タクシー事業を始め、1990年から特定バス事業に参入しました。特定バスとは、「特定旅客自動車運送事業」の通称で、乗せるお客さんや走らせる道が決まっているバスのことです。従業員数は約450名所属しており、そのうちの約300名がドライバーとして働いています。その中には女性ドライバーもおり、現在は9名が所属しています。
主な事業内容としては大きく分けてバス事業とタクシー事業の2つであり、バス事業は、学校や企業に向けられた貸切送迎バス、貸切観光バス、福祉介護に特化した福祉バスがあります。タクシー事業は一般的なタクシーに加えて、観光タクシーや車イスや足腰が悪い高齢者に対して作られた福祉・車イスタクシーである「ジャンボタクシー」があります。現在の主な業務はバス事業で、ドライバーの8割はバスドライバーとして働いており、福祉活動を主にしたバスに限らず、大学と駅を繋ぐスクールバスなどにも携わっています。ドライバー以外の業種は本社で働く内勤職や営業職、福祉・車イスタクシーや福祉バスに同伴する介護職が存在し、ドライバーではない職種の人であっても多くの人が運転免許を持っているそうです。
南観光交通の強みとして挙げられることは、多摩地域との密接な関係からくる丁寧な仕事です。南観光交通を利用する人は、その地域にある大学や、病院利用のお客さんが多いと伺いました。南観光交通は電車や一般的なバスでは行きにくい場所の利用者に対して寄り添い、スクールバスの設置や病院送迎バスを展開しています。その活動の一環として2003年には日野市からコミュニティバスの運行を受託し、「丘陵地ワゴンタクシー かわせみGO」を日野市のミニバスが通らないルートに走らせました。2013年にはその福祉活動が東京都知事から認められ、日野市で初めて「東京都福祉のまちづくり」功労者として受賞され、感謝状を貰っています。
働き方の特徴としては、自分が希望した時間帯で働けるシフト制であることから 残業時間が少ないことが挙げられます。運行管理者の管理のもと仕事が個人に割り振られるため、有給休暇の取得もしやすいそうで、社員に寄り添った働きやすい環境が整っていると感じました。指定の時間に必要な人数が配属され、ドライバーの2024年問題に対しても問題を抱えておらず、現状年間時間外労働時間が960時間を超える職員はいないそうです。そのような整った環境から、定着率が低いと言われるドライバーの平均勤続年数は約10年であると伺いました。また、ドライバーとして還暦を迎えた方も、福祉・車イスタクシーや福祉バスに同乗する介護者として働き続ける方も多いことから、南観光交通の環境が良好であることが分かります。育児や介護責任のある人にとっても働きやすい職場となっていて、元正社員で働いていた女性ドライバーは、出産育児で退職後、会社に頼んで短時間シフトのパート雇用でお好きなドライバーの仕事に復帰されたとのことです。また、腕に障碍をお持ちの男性ドライバーも勤続年数が23年であり、車の進化とともに運転に対しての支障が無いと伺ったことから、障碍のある方に対しての配慮も感じられました。
今後の課題としては、人材不足であると伺いました。南観光交通の従業員の平均年齢は60歳であり、職員同士の仲が良くアットホームである反面、若手社員が少ないことから新しい視点が増えないことを問題であると考えていました。それに対し、今後は新入社員の採用にも力を入れたいとして、大学で開催される会社説明会への参加も前向きに捉えていました。
事例3 ONE TEAMで地域と共生 鎗田運輸有限会社
明星大学3年 小山柊人、佐久間柊、長谷本尚大、横山遥香
私たちは、鎗田運輸有限会社(以下鎗田運輸)にインタビューを行い、副社長、ドライバー、運行管理者の3名の方にお話を伺いました。鎗田運輸は本社を日野市に構え、私たちはトラックを見せていただきたく、八王子市の八王子支店に訪れました。
鎗田運輸はドライバー42人、事務14人(運行管理者2人)、構内管理7人、計63人で運営されている会社です。年齢層は20代が3人で、40-50代が活躍しています。経営理念として「健康・真面目・努力」を掲げており、これは明星学苑の校訓と同じです。理由を伺うと、姉妹である社長、副社長ともに明星学苑に通っておられたことがわかりました。先代が「努力に勝るものはない」といつも仰っていたこと、教訓に共感したということから、この経営理念になったそうです。2021年4月に先代であるお父様から会社を引き継ぎ現社長が就任し、その段階から「ONE TEAM」というスローガンを掲げてこられました。このスローガンを掲げた背景には、食品工場から365日毎日物流センターへ食品を運ぶ「日配」と、依頼を受けて企業間の集配送を行う「集配」という2つの部門があり、同じ会社の社員でありながら2つの部門の社員間で壁ができてしまっていた現状がありました。このスローガンのもと、2つの部門の仕事があることで会社が回っていることを共有するため、制服の統一や挨拶の励行、餅つき大会などのイベント開催により社員同士のコミュニケーションや一体感の増加が図られています。
そして、鎗田運輸は八王子信頼度No.1の運送会社を目指されており、その上で大きく分けて3つの取組があることがわかりました。1つ目は、無事故無違反です。鎗田運輸は安全性優良事業所であることを示す「Gマーク」を10年以上取得しています。一般社団法人東京都トラック協会に2023年11月時点で所属している3346社の中で10年以上続けて取得しているのは29企業しかなく、鎗田運輸はそのうちの1社です。特に意識されているのが法令遵守と仰っていました。2つ目は、地元密着です。鎗田運輸は企業規模を拡大していくよりも、地元に貢献し信頼を獲得し、共生していくというスタンスです。そのための取組として、先述の餅つき大会などのイベントに地域住民に声掛けをし、物流センター付近の住宅への騒音配慮(電気トラックの導入など)、会社周りのゴミ拾いなどをしたりしています。3つ目は、当日オーダー当日納品です。これは、前社長の時から行なっている鎗田運輸の強みで、これが実行できる企業は非常に少ないそうです。それを支えているのが、どんな大きさのトラックも運転できるフリードライバーと、配送ルートやドライバーの乗務割を考える運行管理者です。この難しい要望に応えるからこそ、頼りにされ、信頼されることに繋がると副社長の鎗田香織さんは言います。
また、今後労働環境の見直しが必須で物流が滞る恐れがある2024年問題に対しお考えを聞くと、問題を非常にポジティブに捉えられていると感じました。2023年11月現在鎗田運輸で年間の時間外労働時間が960時間以上のドライバーは存在しません。これは、社員の労働時間にしっかりと目を向ける会社の体制、運行管理者の努力によるものです。課題として、強いて言えば当日オーダー当日納品のやり方を見直す必要があるといいます。現在は当日オーダーを承る時間を制限していません。夕方にオーダーが来て、トラックを走らせたお話も聞かせていただきました。それも、厳しい状況でもなんとかして対応したいという鎗田運輸の想いが込められていますが、2024年問題を踏まえ当日のオーダー時間制限を設ける必要があるようです。さらに、ドライバーの業務内容の見直しが挙げられます。現在ドライバーの仕事には、運転だけでなく、配送先での荷物の積み下ろしが含まれています。このような作業は時間を要するだけでなく力が必要で、ドライバーの女性比率にブレーキをかけており、鎗田運輸のドライバーも42人いるうちで女性は1人です。届け先である着荷主が積み下ろしを行う、カゴ台車やパレットなど力がなくても作業ができる道具がどこでも用意されるなどの環境整備が望まれます。鎗田運輸としても女性ドライバーを増やすための取組として、保育所を作る計画があるようです。これらを踏まえ、2024年問題をきっかけに荷物の受け渡し先である着荷主と荷主との相談が重要となり、鎗田運輸としては見直しによる効率化、安全化が図れるのではないかと捉えておられます。
会社としての今後の課題は、人がいて初めて車は動くということで、ドライバーの獲得です。今いる人財を大事にし、福利厚生の見直しや若い人が来るためにインスタグラムで仕事内容を発信してみるという計画もあるそうです。また、餅つき大会などのイベントでビラを配るなど、会社を知ってもらうことを意識し、「ひらけた会社」として地域と共生していくことを大事にしたいということを挙げられていました。
事例4 三方よしから成り立つ働きやすさ 株式会社ミューテック35
明星大学3年 中村麻南、藤田明希、山根萌子
私たちは、2023年10月18日に株式会社ミューテック35(以下ミューテック35)にインタビューを行い、代表取締役社長と育児休暇を取得し復帰された女性社員の方にお話を伺いました。また、工場見学中、複数の従業員の方とお話しもさせていただきました。
日野駅徒歩圏内に事務所と工場を持つミューテック35は、1990年7月にミューテクノとしてスタートしました。製造業で精密板金加工、溶接加工、試作品制作などを行っており、医療機器・産業用ロボット・弱電部品等多業種における工業部品から装飾品まで幅広く取り扱っています。2015年からは、自社ブランド製品を扱うTHE BLOSSO(ザ・ブロッソ)を立ち上げアクセサリー販売も行っています。
コンセプトとして、「最良のものを敏速に提供」を掲げています。そのための強みとして、見積もりから加工、提供までの「速さ」と「高度な技術」があります。従業員数は31人と小規模ですが、納期や品質に対しての高い意識、そして高い技術力があるからこそ、現在の顧客数は600 社を超えています。
社名の由来として、ミューテック 35の「3」には、「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の考え方を踏まえ、その実現を私たちの五(5)感を最大限働かせて目指すという意味が込められています。また、「35」には十五夜の月、満月の意味もあります。まん丸は幸せと暖かさの象徴で、社員の家族を含めたみんなと会社、社会がさらに繁栄すればという意味が込められています。会社の方針としても、仕事や案件の決め事において「三方よし」を考える基準としており、その中で1つでも損をすることはやらないとのことです。これからも分かるように、ミューテック 35は「人」を大切にしています。それはどんなにAI化やIT化が進んでも仕事をする上で結局は人と人との関係が1番大切であると考えているからです。そして、その「人」にはお客さんだけでなく、社員も含まれています。だからこそ、ミューテック 35では社員のことも大切にしており働きやすい環境が整えられています。
仕事面では、自由度が高く、新たな設備や機械などを求めた時に必要なら却下されずに導入する体制があるため、働く上で挑戦できる環境が整っています。そして、仕事を趣味としており好きだからこそみっちり働く人もいれば、育児などを考慮して短時間勤務や急用の際には休暇を取るなど、働き方に個人への尊重があり、1人1人それぞれにあったWLBも取れています。育児や休暇への配慮として、働いている中で子どもが急に熱を出してしまった時などは、従業員同士急な出来事はお互い様という認識があるため、フォローしあうそうです。社長は「家族のために働いているのに、家族のために休めないことはない」と仰っていました。
また、高齢労働者の活躍の場も見られました。事務所まで上がるには階段があり、その階段を上がることができるうちは働くことができるようにしているそうです。そのため、最年長で81歳のパートさんが働いています。このような多世代のコミュニケーションの場、能力向上の場として勉強会を月に2回行っています。IT推進課、人材育成、生産効率アップ、開発の4グループに分かれ自分たちでテーマを決めてディスカッションを行います。自分の思っていることを発言するため、その意見交換がその人を知る機会にも繋がっています。
今後の課題として、金属で物を作る時にどこにお願いすればいいのかということを無くすためにも自社だけでなく協力会社と協力し窓口の作成を行うこと、人材不足と物作りに興味を持つ人が減ってしまうのではないかという心配には、自社の作品でアピールしていくことが挙げられました。WLBの部分では、親の介護が必要になった時の対応として会社に何ができるのかということ、育児中でも仕事ができるよう在宅ワークを取り入れることが挙げられました。
今後の展望として、ミューテック35にお願いすれば大丈夫だろうと思ってもらえるよう、世界に誇れる日本の工業界へ貢献していく試作屋のトップを目指しています。
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