新春対談 パートナーシップで取り組む気候変動対策(令和5年1月号)

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ページID1022856  更新日 令和4年12月22日

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新春対談 パートナーシップで取り組む気候変動対策

 連日の猛暑日や豪雨被害の増加など、気候変動の問題は既に私たちの日常生活に影響を及ぼすような状況になっています。日野市は令和4年11月に気候非常事態宣言を行い、この問題に取り組む決意を表明しました。今回の新春対談では、長年、地球温暖化・気候変動問題に取り組んで来られた専門家のお二人をお迎えしてお話を伺いました。
 お正月にこの問題についてじっくりと考えてみませんか。
※文中敬称略

対談風景の写真

対談者紹介

日野市長大坪冬彦の写真
日野市長 大坪 冬彦
山本良一氏の写真
山本 良一氏
昭和21年生まれ
昭和49年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)
令和3年東京都公立大学法人理事長就任。東京大学名誉教授、気候非常事態ネットワーク(CEN)名誉会長、日本エシカル推進協議会栄誉会長、北京大学・清華大学など31大学の名誉・客座・顧問教授。
江守正多氏の写真
江守 正多氏
昭和45年生まれ
平成9年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)
同年から国立環境研究所に勤務。令和4年から東京大学未来ビジョン研究センター教授と国立環境研究所上級主席研究員を兼務。専門は気候科学。気候変動に関する政府間パネル第5次、第6次評価報告書主執筆者。

気候問題に取り組む姿勢~諸力融合

市長:私は、さまざまな課題にすべての人・団体と力を合わせ、対話をしながら一緒に取り組むという意味の「諸力融合」という言葉をスローガンとして掲げてきました。気候危機の問題も、そうしていかなければならないと思っています。
 令和4年11月の環境フェアで、日野市は気候非常事態宣言を行い、広く行政、市民、そして企業と一体となってゼロカーボンシティに向かって進んでいくことを宣言しました。それを受けて、今年は、気候市民会議を開催し、市民・行政一体となってこの大きな問題に取り組んでいくということを考えておりますし、今年はそういう年にしたいと思っています。

山本:諸力融合という言葉を伺って大変素晴らしいと思いました。諸力融合をしなければ、今の危機を突破することはできない。
 まず申し上げたいのは、“危機”と“非常事態”は、日本語では同じように考えられていますが、英語の世界では、明確に違うということです。日本では“気候危機宣言”を行っている自治体もありますが、これは世界的な気候非常事態宣言の統計には入れられていません。まだ“危機”では認識が甘いからです。
 なぜかというと、“非常事態”は直ちに行動を起こすことに直結しているからです。非常事態には、緊急行動をとらないといけないので、私権の制限が入ります。例えばコロナのロックダウンがそうです。つまり、民主主義を制限しないとわれわれは危機を突破できないというところまで来ているわけです。
 非常事態には、戦争・コロナ・気候問題などの例がありますが、このように複合化する非常事態に対して民主主義を守りながらどう対応するかということが極めて重要なテーマになっています。日野市が行う気候市民会議でランダムに選ばれた市民の意見を聴取して、それを政策に反映させる方法もその一つですが、それが今非常に議論されているところです。
 そういうことで、気候の非常事態を公に宣言するということは、大変なことなんです。

江守:僕から申し上げたいのは、ぜひ前向きな姿勢でこれに取り組むべきであるということです。2015年に世界で一斉に行われた世界市民会議「気候変動とエネルギー」の調査で「気候変動対策は、あなたにとってどのようなものですか」と聞いたところ、世界全体では「生活の質を高める機会である」と答えた人が多かったのですが、日本では「生活の質を脅かす」と答えた人が多かった。つまり、日本では気候変動対策は、暑いのにエアコンを使ってはいけないんじゃないかとか、何か我慢や負担をすることだというイメージで捉えられているのです。
 もちろん、過剰な消費を見直して適正化することは必要だと思います。けれども、そこそこ快適な生活を諦めてくださいと言っているわけでは決してなくて、むしろ気候変動対策をすることによって生活の質は上がっていくんです。
 例えば、再生可能エネルギーを増やすことには、乱開発などの問題もありますが、国産のエネルギー源なので今のような燃料高の時にメリットがあるほか、災害時に非常電源としても使え、大気汚染物質も出ない、そして地域の中で地産地消的に回るエネルギーになるかもしれない、というように考えると良いことがたくさんあります。
 市の姿勢としても義務感でやるのではなくて、SDGs 未来都市に日野市が都内で最初に選定されたように、市が率先して皆が幸せになるような脱炭素社会を実現することで、市の評判も上がるし、そのモデルが周りに波及していくことで日本全体をリードしていくことができる。つまり、取り組むこと自体にメリットがあると考えていただきたいです。

山本:山本諸力融合についてですが、私どもの大学では、キャンパスの建設を請け負っている建設会社にも気候非常事態宣言をお願いしたら、やってくれたんですよ。なので、日野市も大学や近隣自治体に働きかけてほしいです。諸力融合でお互いに影響を及ぼし合いながら、この問題に立ち向かわなければなりません。
 それから、江守先生が強調されたように、持続可能な経済社会を目指しているわけですから、それには脱炭素、脱物質、自然共生だけでなく、もう一つ社会的連帯経済という要素をぜひ入れていただきたい。つまり助け合っていくという要素なんですよ。イギリスの自治体のプランでは、貧しい世帯や外国人世帯にどう配慮するかまで考えられています。例えば蛍光灯をやめてLED 電球にするにはお金が掛かります。そういう配慮を積極的に考えていかなければいけないと思います。
 また、お願いしたいのは、ぜひ科学的にやっていただきたいということです。日本の温暖化対策の基本計画は科学的に書かれていない。カーボンニュートラルと言われていますが、何をゼロにするのか、CO2を計算するときにその範囲が明確でないんです。われわれが使う製品やサービスでも間接的にどこかでCO2を出しているわけです。それも計算しないといけない。欧米の自治体の計画には、何をいつまでにどれだけ削減するかがきちんと
書いてあります。
 さらに、欧米では市役所は民間よりもっと早くゼロにするというのが普通のやり方なんです。市全体と市役所を分けて市役所の方は早く設定しているわけです。ところが、日本の場合は、皆一斉に横並びで2050年カーボンニュートラルと言っています。だから、日本の自治体も政府の目標よりもっと早い目標を設定しないといけないと思っています。

気候非常事態宣言とは
 気候非常事態宣言は、気候変動が異常な状態にあることを認識し、積極的に地球温暖化対策に取り組む意思を表明するもので、現在までに世界で2,000以上の行政機関などが行っています。
 日野市は令和4年11月に環境フェア内で気候非常事態宣言を行いました。

世界の取り組み ■パリ協定(平成27年) 産業革命前との比較で世界の気温上昇を 1.5℃までに抑えることを定めた国際的な 協定。達成には世界の温室効果ガスの排 出を実質ゼロにすることが必要。 日本の取り組み ■カーボンニュートラル宣言(令和2年) CO2排出量を2050年までに実質ゼロとす ることを目指す宣言。この実現に向けて 「グリーン成長戦略」を策定。日野市の取り組み ■都内初のSDGs 未来都市に選定(令 和元年) ■第3次環境基本計画、第4次地球温 暖化対策実行計画策定(令和3年度) CO2排出量を2030年マイナス46 %、 2050年実質ゼロとする目標を定めた。 ■日野市気候非常事態宣言発出 (令和4年11月) ■日野市気候市民会議開催 (令和5年予定)

日野市と気象災害

江守:日野市は気象災害の深刻さの認識はお持ちになっていますか。猛暑とか台風とか。

市長:令和元年の台風第19号で、浅川が越水寸前までいきましたし、多摩川は増水で日野橋が破損して半年通行不能になりました。日野市より人口規模の大きい自治体は多摩地域にたくさんありますが、避難者は日野市が一番多く、8,600人もの人が避難しました。まさに深刻な危機でした。

江守:それが起きた直後は本当に対応が大変だと思いますけれど、少しして振り返る時に、気候変動対策の必要性を皆で理解するきっかけにすることがとても大事です。日本では気象災害があっても、例えばパリ協定などと結びつけて報道されないということが指摘されています。そういう機会に認識を深めることは大事なのかなと思っています。

市長:われわれも台風第19号の対策ということで、やはり防災が前面に出てしまいます。

江守:そうですね。防災は防災ですごく大事です。

市長:防災は防災で大事なんですが、ではなぜあれだけの大雨が降ったのか。
 千年に一度の雨が降るということを想定したハザードマップがあって、その想定が既にもう起きてしまった。その原因は何なのかを環境問題として捉え直す呼び掛けは、自治体としてできていないなと思いました。ご指摘ありがとうございます。

気候市民会議

気候市民会議とは  無作為抽出(くじ引き)で 集まった市民が、気候変 動対策について知識を深 めながら、話し合いを行 って、政策の提言などを 行うものです。令和元年 頃にフランス、イギリス など欧州の国から始まり、 日本では令和2年に札幌で 初めて開催されました。

市長:令和4年11月に気候非常事態宣言を行って、その宣言を具体化するための方策を市民と共に考えて実行していくために、令和5年に気候市民会議を行います。札幌、フランス、イギリスなどの事例を知って、こんなことをやっていく必要があるだろうなと考えました。
 ただ、日野市とは人口構成や環境などいろいろと違いますので、日野市版の気候市民会議のやり方のアドバイスがあればお伺いしたいと思っています。

江守:僕は札幌の気候市民会議を主催した研究グループに入っていて、最近では武蔵野市のアドバイザーとして、他の気候市民会議でも情報提供などで参加させていただいています。まず気候市民会議を日野市でやること
自体はとても素晴らしいと思っています。
 気候市民会議はいろいろなバリエーションはあるにしても、基本的には無作為抽出の市民で、その母集団の縮図になるように年齢構成や、男女比、あるいは他の属性もできるだけ同じ比率にします。それで普段あまり話す機会がないような違う属性の人と対話をして、違う立場の人の考えを聞き、それで自分の意見ももしかしたら変わるかもしれないという中で意見を出し合って、政策の提案を行うところに特徴があるわけです。
 日本の場合はイギリス、フランスなどの例を見て、最初研究グループやNGOなどから取り組みが始まり、その後に自治体主導で行われたわけです。研究者主導の気候市民会議というのは言ってみればおせっかいでありまして、出てきた提案を自治体がどれくらい参考にするかが決まっていません。一方で、自治体主導で行う場合は、実際に参考にするために開くものなので、ちょっと重みが違うことが始まってきたと思っています。
 ただ行政主導で行っても、実際には既存の計画もあり、気候市民会議では市民の行動規範を話し合って提言するだけという建て付けになっているところもあります。それはそれでいいのですが、少し物足りないと思って拝見しています。ぜひ既存の施策との関係性をうまく整理して、市民から行政への要望をきちんと受け取るような形で日野市はやっていただけたら一段階素晴らしいものになるのではないかと思うんです。
 と言いますのは、国や自治体にルールを作ってもらって、関心がない人も含めて市民全体の行動が変わらないとCO2排出量実質ゼロはできないので、ぜひ市民の方にも大きなスコープで議論してもらう機会を作ってもらえるとうれしいです。

山本:記憶では、イギリスのオックスフォード市も市民会議をやったのですが、その後にどの部分が施策に反映されたかというところまで内容を非常によくまとめた報告書を作成しているんです。これは非常に誠実なやり方だと思っています。
 それから、今回の気候市民会議では二つの点をアピールされてはどうかと思っています。
 一つは、従来は経済成長一本やりだった日本政府が令和3年6月にグリーン成長戦略を発表して、これは非常に大きな変化でした。環境に配慮しながら経済成長ができますよということを申し上げたいです。
 もう一つは、先ほど江守先生も指摘されていますが、気候変動対策には、実は副産物としてのメリットがあるということです。この相乗便益があるということが、日本の自治体の環境基本計画の中には十分書かれていないんです。
 この二つを市民会議でアピールされてはどうかと思います。

市民の皆さまへのメッセージ

江守:日野市のことを僕はあまり知らなかったんですが、SDGs 未来都市にも取り組まれ、気候非常事態宣言をして、気候市民会議も計画されていて、とてもいいなと思いました。ぜひ積極的に参加していただいて、日本をリードするような取り組みをつくっていただきたいです。

山本:私からは、気候がティッピングポイント(物事がある一定の条件を超えると一気に拡がること)を越えつつある今こそ、カーボンニュートラルに向けて行動を起こす時であると申し上げます。

市長:日野市の既存の計画は山本先生がおっしゃったように科学的な部分が少ないと思いました。また、フランスでは気候市民会議が直接マクロン大統領に政策を提案して幾つか採用されたという例もあります。既存の計画があるから気候市民会議は別で、という話にしないように工夫をしてやっていきたいと思います。市民の皆さまと共に今年は行動する年にしたいと思っています。

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