未来の在り方を考えて、 今できることから少しずつやっていこうというビジョンに基づくようなものがバックキャストと言っていいと思います。 ◆私たちの日常とSDGs的な学び方 市長:市の調査では、SDGsを知っていると答えた市民の方の割合が29.4%、約3割でした。 SDGsという言葉自体が難しそうという声もあり、まだまだ認知度が低いと感じています。 ですから普段の暮らしの中で、SDGsの17個のゴールをどう意識して実践していくかがこれからの課題であり、 どう自分事にするかが、これからの市の課題だと思っています。 蟹江:認知度が約3割というのは日本全体から見ると、むしろ良い数値だと思います。 そこがスタート地点なので、これからいろいろな人に知ってもらい、行動を広げていくことが重要になってくると思います。 働き方をどうしようと考える方や、子育て中のお母さんで仕事をしたいけれどできないという方も中にはいると思います。 5番の「ジェンダー平等を実現しよう」に関心があったり、 あるいはごみ関係で12番の「つくる責任つかう責任」とか、13番の「気候変動に具体的な対策を」とか、 再生可能エネルギーに関心がある方は7番とか、個人のレベルで関心があることが17個のどこかに当てはまると思うので、 そこをまず最初の入口にすることが大事だと思います。 例えばレジ袋やペットボトルをできるだけ使わないようにしようとか、できるだけ水筒を持っていこうとか、 何か一つのことであっても、考え始めるといろいろとできることが見えてくると思うので、 その先に他のゴールに関連付けて視点を広げていくような取り組み方がいいと思います。 今まで自動販売機で水を買っていたのを、例えば2日に1回水筒を持っていくというだけでも、 使い捨てのペットボトルの量を半減できます。 そういうところから始めて、 できるようになったら次は使ったものをリサイクルしようとか、海のマイクロプラスチックの問題に関心を持つとか、 少しずつ進めていくことができると思います。 まずは、関心があることをきっかけとして、それには何ができるかというところから始めたらいいのではと思います。 市長:昨年、平山小学校が総合的な学習の時間でSDGsを取り上げました。 17個のゴールを子どもたちが見て、どれに関心があるか、 それをやるためにどうしたらよいかということを考える実践も始まっています。 また、都立日野台高校では、社会と地域を考えるための窓としてSDGsを使っていくという取り組みも始まっています。 この他に、持続可能な社会づくりに向けた教育推進校に日野第八小学校が指定されました。 子どもや若者たちは今、社会を考える物差しとしてSDGsに取り組み始めています。 未来を担う感性豊かな次世代の若者たちが、無理なく自然に、自分たちの日常からSDGsに入っていくような取り組みが始まっています。 蟹江:小・中学生、高校生といった多くの学生が今、非常にSDGsに関心を持っています。 子どもたちは世の中の仕組みなどにはまだ触れていないからこそ、 この目標を達成するために何がいいかということをダイレクトに考えられます。 SDGs的な学び方というのは、世の中の仕組みを知ってから何ができるか考えようというよりも、 目標を見て、バックキャストで、それを実現するために何ができるか、 そしてどうすればよいかを自分で調べていくことなのだと思います。 学年の差はあまりなくて、むしろ若いほど柔軟な発想ができるというような感じがSDGs的な学び方で、すごく面白いと感じています。 市長:先生のおっしゃったSDGs的な学び方という表現はいいですね。 まさにポイントを押さえていて、日常に落とし込むためのキーワードになると思いました。 蟹江:大人が寛容になって少し引いて考え、「実は良いことかもしれない」と感じることから新しいことは生まれるような気がします。 子どもから学ぶということが、市長のおっしゃった諸力融合というところにつながっていくのではないでしょうか。 ◆諸力融合~誰ひとり取り残さないまちづくり 市長:日野市という地域だけで見てもいろいろな問題が発生していて、またこれからも発生することが予想されています。 さまざまな属性の方々が地域にいて、それぞれの対立や摩擦や競合もあるけれども、 みんなが一緒に取り組まなければ社会構造から生み出される課題の解決はできません。 こういうことで、私は諸力融合という言葉を使ってきました。 行政だけではなく、地域のさまざまな方々が一緒に取り組んでいかなければ、超高齢社会の諸課題は解決できないと考えています。 そのための地域づくりをどう進めるか。 地域にはいろいろな団体・個人・企業・大学もあれば市民活動をしている方もいます。 それぞれが自分の得意分野を持ち寄って、チームとしてどうやって問題を解決するかというのがこれまでやってきたことでありますし、 これからますます問われていくのかと思います。 蟹江:まさにそこがSDGsを達成するためにやらなければならないこととして、17番目の目標に書かれています。 それがパートナーシップであり、さまざまな力を融合させて、目標に向かっていくというところがすごく大事だと思います。 そういうことを可能にさせる仕組みというのが、SDGsの中にはあります。 目標を見て「面白そうだな」とか、「これをやってみよう」という人たちがその目標のもとに集まって、そして何かをやっていく。 あちらにいる人もこちらにいる人も同じようなところを目指したいというのであれば、 「一緒にやっていきましょう」ということでつながって、力を合わせていく。 これが大事だと思います。 今はインフラも発達していて、インターネット、スマートフォンを使ってすぐ発信できて、 自律的に分散的にいろいろな人がいろいろなところで中心となって動いています。 SDGsの目標についても、その実現に向かって、さまざまな活動が協調・協働していくというところに、 トップダウンではない良さが出てくるのではないかと思います。 その中ではいろいろな触れ合いがあったり、学びがあったり、イノベーションが起こってきたりします。 このようなSDGsの進め方は、今の時代の流れにも合っているのではないかと思います。 市長:行政の中にいろいろな視点を取り入れるということが必要であり、それをつなぐための視点としてSDGsは有効だと思っています。 市は昨年、障害者差別解消推進条例をつくり、今年の4月から施行する予定です。 市の職員も当然そうですし、市民や商工業者にも話をして、一緒にやっていこうという話になっています。 こういう施策がSDGs的な取り組みになっていくのではないかと思いますし、そのような視点でこれからやっていきたいと思っています。 蟹江:まさに、SDGsは誰ひとり取り残さないというのが非常に重要な理念なんですが、 その一番大事なところが忘れられがちだと思っています。 一番大事なところは取り残されがちな方々と一緒にやっていこうということだと思いますし、 むしろそういう方々しか持っていないところをうまく生かしていくというのが一番大事ではないかと思います。 今年はパラリンピックもあります。 障害者と一緒にビジネスをやっていくとか、 そういった発想で仲間として一緒にやっていくということが普通になる世の中をつくっていくというのが、 実はSDGsの一番大事なことだと思います。 ぜひそれを「SDGsはこういうことなんだ」という形で進めていただきたいと思います。 また、逆転の発想をするところがSDGsは多いという気もします。 若者のアイデアの例を紹介しますと、先日行われた内閣府の「地方創生ワカモノ会合」のアワードで最優秀賞を取ったのは、 使われていない休耕地があるのを見た高校生が、「夏の夜にここで農作業をしよう」と考えたものです。 子どもたちは夜に集まって遊べるから楽しいし、お年寄りは暑い昼間に農作業をしなくていいというアイデアです。 そういう逆転の発想というか、目標を達成するために何をやれば良いかと考えると、そういう発想が出てくるのだと思います。 (6ページにつづく)