市長新春鼎談 覚悟を そして希望を〜いつか思いは叶う〜 〈1面からの続き〉 べきか、そのあたりを考えなければならないと思っています。 トータルなライフスタイルを提供できるまちに 岡本 市長の話を伺うと、日野市は、日本経済の縮図のような地域です。 世界経済は、ますますグローバル化していきます。インドや中国、ブラジルなども経済発展し、より高度で安いものがどんどん日本に 入ってきます。そのような状況のもと、日本のものづくりというのは、従来の発想のままでは、厳しいのではないかと思っています。 すでに、工業先進国のヨーロッパやアメリカでは、付加価値の高い高度な工業・産業へシフトしています。多分日本もそのように舵 (かじ)を取らなければならないでしょう。 岩澤 当社は、立川市から日野市に平成12年に移転し、12年目を迎えました。 私の印象では、私たちのような規模・質の企業が意外と日野市には少ないと思います。 大企業があり、それを取り巻く10人以下の零細企業が多く、私たちの会社はその狭間にいるような感じを受けます。あえて「狭間」 という言葉を使ったのは、規模だけでなく、市の産業振興施策の面でも私たちのような企業は対策を取ってもらえない狭間の企業です。 特徴ある工業のまちづくりを進めようと考えた場合、やはりバイタリティーのある元気な企業というのが存在し、それをサポートする 行政という2つの両輪がしっかりしていかないといけないのではないかと思います。 岡本 大企業が都会から出て行ってしまう、これは時代の流れの中で、やむを得ないことだと思います。 今後、工業といっても従来の工業のイメージではなく知識産業化、科学技術、例えばレスカさんは、センシング(注2)および アッセンブリ(注3)精密技術ですが、高度な技術を活用した工業化をすべきです。 そして、何よりも大切なものは人材、教育された人材です。日野市の強みは環境です。日野市は住宅地で住みやすい環境があります。 高度な人材が住みたがる環境を市が提供できる、また、そのような環境を維持していくということが、非常に重要だと思います。 環境にやさしく高い技術を持った人たちが、職住接近で、散歩しながら職場に行ける、子育てできる、トータルなライフスタイルを 提供できるまちになって欲しいと思っています。 今後それを実現できるかは、市政の課題となってくると思います。 キラリと光る会社がまちのレベルアップにつながる 市長 先ほど岩澤社長が、お話されていましたが、行政は企業ともっと連携して地域を持ち上げ、まちを活性化させるべきだと思い ます。 今、農家や農地がどんどん減っていますが、私は、農業を元気にしたいと思い、農業に関する条例やアクションプランを策定し、農業を 行政がバックアップしていく仕組みを作りました。それとまさに同じようなことが工業にも求められているのかなと思います。 現在でも、この地で、さまざまな企業が一所懸命努力していますが、それらの企業と連携し、工業の面からも日野のまちを引っ張って いくということが行政に求められていると思います。 では、いわゆる重厚長大な企業を誘致できるのかと考えると、日野自動車の工場が移転する理由のひとつに、近隣住宅との騒音問題が ある。そのため、茨城県の自然の中で住宅がほとんどない広い工場に移ることになったのです。 70数年前の日野自動車が日野市に移転してきた状況を、別の地域で繰り返しているということです。 そうなると、岩澤社長の会社のような精密機械を作り、騒音などがなく、クリーンな工場、しかも生産性や付加価値の高い会社で あれば、多少地価が高くまわりに住宅が迫っていてもやっていけると思います。そういう意味で、新しい現代技術の先端をいくような 企業であれば共存できるのではないかと思っています。 日野市はいわゆるベッドタウンで住民のほとんどは、都心部に通って夜に帰って来るだけでした。そうなると、日野市の行政にはあまり 関心がない。しかし、先ほど岡本先生がお話しされたように、職場と住居が同じ地域にあれば、市民皆さまが、まちのことを本気で 考えるという視点がもっと育つと思います。 また、日野市には、キラリと光る会社がたくさんありますよとPRできれば、このまちに住んでみようかという人が増えると思い ますし、まちのレベルアップにもつながると思います。 新しいタイプの企業誘致と起業創出を 岡本 ぜひ、そういう方向でお願いしたいと思います。海外では、ハイテク・ローテクを問わず、小規模でも非常に収益や生産性が 高い地域産業の集積が見られます。そうした企業を集めるための仕組みの形成を政策として実行しているところもあります。 その仕組みはというと、これまでの工業誘致政策が、土地を整備し、税金を安くし、交通を整備するといったことだったのですが、 最近は「専門性のある人材がいますよ、教育を受けた人材がいますよ」といったように人材が焦点になっています。パートであっても 専門的な機材を使いこなせる人がいますよと。日本にはまだ、そのようなケースがありませんが、企業に必要なことは何だろうという ことを考え提案してあげることが重要です。 また、日野市には大学があります。大学との連携、これは、最近の工業にとっては不可欠です。従来型の企業誘致ではなく、新しい タイプの企業誘致を行ってもらいたいのです。大学の研究成果を起業につなげる、いわゆるインキュベーション(注4)も重要です。 また、市内の人が起業するだけでなく、他の地域から優秀な人に来てもらって、優秀な会社を作ってもらうというのもあると思います。 これは地域間競争ですから、日野市で起業したいという条件を整備してあげられるといいと思いますね。 こういうことを、工業振興基本構想の中で盛り込めたらいいと考えています。 日野市でものづくりをしたいそういう環境づくり 岩澤 私たちの会社は、小さな市場でいいのです。私たちの機器を必要としている企業があり、そこへ、適切でしっかりとした商品を 提供して仕事を助けてあげるという関係さえあれば、他企業が入ってくるような不要な競争を排除でき、私たちのような規模の企業が 付加価値の高い、収益の高い生産活動ができるのです。 まちづくりも同じようなことが言えると思います。たくさんのものを大規模に動かしたり、価格を安くする、そういう流れは、個々の 特徴というものを打ち消してしまいます。 商品を作るメーカーの立場からお話ししますと、特徴ある商品を作るうえで、日野市で物を作りたい、作りやすいじゃないかと思える ような環境がどのように整えられるかを市として考えていけばいいと思います。 具体的には、複数の企業を誘致し、ある程度コロニー(注5)を作らなければいけないと思います。それから起業ができる環境を作る ことが必要だと感じます。 小さな企業ですと、技術革新というのは意外と大変です。 今、産学連携でいろいろなことをやっていますけれど、私から見るとまだまだ不十分で、やはり私たちの規模の会社が産学連携する ためには、例えば地元大学との連携を、行政が橋渡ししていくような取り組みが必要だと思います。 また開発費用の補助制度、そういうことも考えても良いのかなと思います。 人材についても大きな問題で、優秀な学生さんは、大企業志向です。地元の大学の方々に企業を見学してもらい、仕事をしてみたい という人をあっせんするとか、また、今だと団塊の世代が、リタイアしていますが、この方たちは、たくさんの技術を持っていて、 まだまだ十分に働けます。こういう方たちをあっせんする。他には、戦略的な元気のある企業の事業計画に対して、行政と金融機関が 連携し積極的に融資をする。こんなことも有効だと思います。 実際に製品開発の資金は大変で、私たちのような会社が、海外に商品を販売するような場合には、拡張販売の資金、展示会費用、海外 渡航費などいろいろな経費が掛かります。そういうものに融資をしてもらうことは本当に助かります。 最後に、人材育成です。働く人のモチベーション(注6)を保ちながら、個人のスキルを上げていくことは、まさに会社の成長に直結 します。その点では、セミナーなども有効だと思います。企業からこのようなセミナーをしたいと行政に希望を出し、行政がそれに 応じて、適した内容・講師をそろえるという、そういうようなことをやってもらうと非常に助かります。 まち全体の底上げも重要 岡本 レスカさんのような会社は、研究開発や人材が重要ですよね。 この前、ノルウェーに行った時、ノルウェーの漁業の生産性は日本の4倍、賃金も日本の2倍です。日本では、漁業の人の平均年収 200〜300万円、ノルウェーではその倍以上、1千万円を得ている人もいます。競争力もあり、十分利益も出ます。日本のス   〈3面へ〉 【用語解説】 注1 日野五社…吉田時計店(現・オリエント時計)、六桜社(現・コニカミノルタ東京サイト)、東京自動車工業株式会社 (現・日野自動車株式会社)、富士電機製造株式会社豊田工場(現・富士電機システムズ株式会社東京工場)、神戸製鋼所東京研究所 (現・シンフォニアテクノロジー株式会社)の5社の総称。 注2 センシング…センサーを利用して物理量や音、光、圧力、温度などを計測、判別すること。 注3 アッセンブリ…機械の組み立て加工。 注4 インキュベーション…設立して間がない新企業に国や地方自治体などが経営技術、金銭、人材などを提供し育成すること。 注5 コロニー…同業者仲間の生活共同体。 注6 モチベーション…動機付け。 注7 クラスター…ある集団内の同じような性質を持つものが集まること。