[新春対談]SDGs未来都市日野 慶應義塾大学大学院教授:蟹江憲史 日野市長:大坪冬彦 日野市は、昨年7月に内閣総理大臣から令和元年度SDGs未来都市に選定されました。 SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、 2015年国連の全加盟国の賛成を得て成立した国際的な将来目標です。 市では、次世代に引き継ぎたいと思えるまちを目指して、廃棄物の問題や産業の創出をはじめとした取り組みを進めています。 そこで今号では、慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授にSDGsについて解説いただき、 諸力融合に向けたまちづくりを考えていきます(文中敬称略)。 [お問い合わせ]市長公室広報担当(電話番号042・514・8092) ◆SDGs~未来の姿から今を考える 市長:あけましておめでとうございます。 2020年代の始まりの年を迎えるにあたって、広い視点から未来の日野市の姿について考えていきたいと思います。 まずは先生からSDGsについて、ご説明いただけますか。 蟹江:SDGsは国連全加盟国が賛成したことが大きなポイントです。 17個の大きな目標があり、その下により具体的な数値目標や年限を示したターゲットが169個並んでいます。 一般的に、「条約」や「議定書」と呼ばれるものには詳細な手順がつきものですが、SDGsにはそういったルールがありません。 世界にはさまざまな国や地域がありますが、それぞれ実情は異なりますよね。 違いがあるからこそ、「こうしましょう」という目標は一緒に決めておき、具体的な手段はその地域に合わせて考えていく。 自由度が高いことがSDGsという仕組みの特徴の一つです。 やり方は自由なのですが、大切な仕掛けが一つあります。 それは「達成度を測る」ということです。 国連では世界全体の達成度を測るため、232個の指標を使いながら、定期的に進捗状況を確認しています。 指標を決めることで、国や地域ごとの進捗状況が分かりやすくなり、 「今年は特にここに力を入れよう」という議論や行動を起こしやすくなるのです。 SDGsの17の目標を見ていくと、貧困やエネルギー、気候変動、経済といった一見無関係に思えるものが並んでいます。 ですが、自分自身の身近な困り事や課題を思い返すと、そのほとんどがこの17の目標のいずれかに結び付くのではないでしょうか。 多くの課題を17個にまとめたのがSDGsだとも言えるでしょう。 市長:行政が率先してSDGsに取り組むことが求められています。 私は市長就任後に諸力融合というテーマを掲げてきました。 市民や企業など、さまざまな方々が力を合わせて直面する課題に取り組めるようなまちを実現したいと考えたためです。 これは、SDGsの17番の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」と同じものだと考えています。 これまで市では、暮らしの身近な課題、生活課題を一緒に解決したいと考える企業と勉強会を行ってきました。 連携した取り組みも始まっています。 例えばピンクリボン(乳がん早期発見啓発イベント)では、多くの企業や市民が、市と一緒になって活動に取り組んでいます。 さまざまな立場の方が対話をすることで、新しい取り組みが生まれていくと感じています。 また、市では2000年にごみ収集の有料化を行うとともに、ダストボックスを撤去して戸別収集に変更しました。 当時のごみ排出量が多摩地域でワースト1だったこともあり、 第一次ごみ改革として、市民や事業者の皆さまにもご協力いただきました。 ごみの量は劇的に減りましたが、新たにプラスチック類の資源化が進まないという問題が生まれています。 これを受け、第二次ごみ改革として、プラスチック類の資源化を進めるための施設を造って、 さらなるごみの減量化・資源化を行い、SDGsにあるような環境問題に取り組みたいと思っています。 最終的にはごみそのものをなくしていくことが目標です。 これは市がSDGsとして取り組む柱の一つとして挙げたものです。 蟹江:どのように取り組みを進めていけばよいのか、何を着地点にすればよいのかという、 着地点から考えることがSDGsの一つの特徴です。 SDGsに書かれていることは目標、つまり着地点だけです。 それを実現するためのやり方は本当にいろいろあって、 そのやり方が実現された先の世界からさかのぼって今を考える、というところがバックキャストで考えるということです。 今さまざまな問題があるのでその問題を解決するためにどうするかというのも一つのやり方ですが、 バックキャスト的に考えると未来の姿があってそこから現在にさかのぼって考える、 そうするといくつかのステップでそこに近づくということが必要になってきますので、それを進めていくという考え方です。 先ほどのプラスチックの話でも、 例えばSDGsでは14番の「海の豊かさを守ろう」というのが2017年にSDGsの中で焦点をあてて取り上げられ、 それがきっかけでほかの人たちもこれは大事だからやらなければということで今に至っています。 市長のお話も踏まえると、もっと関係してくるのが12番の「つくる責任つかう責任」で、 持続可能に生産消費をしていき、資源をしっかり使いましょう、ということです。 気候変動を十分に抑えた社会をつくっていくためにどういう対策が必要かを考えると、 究極的にはごみを出さないようにしようということです。 例えばプラスチックの再資源化をするとか、リサイクル率を上げていくとか。 プラスチックに限らずリサイクルをしていくといったステップがあると思います。 (4ページにつづく) ■日野市のごみ問題の経緯 1995~ 環境条例の制定多摩地域でワースト1のごみの量 2000 ごみ改革に着手 ごみの有料化 ダストボックス撤去 2001 ごみの量が半減 最もごみが少ない自治体に 2008~ 新たな課題の発生"リサイクル率"の低迷と処理施設の老朽化 2013~ ごみ処理の3市広域化と合わせプラスチック資源化施設を計画 蟹江憲史(かにえのりちか)氏 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 1969年生まれ。 慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ代表、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)シニアリサーチフェロー。 北九州市立大学講師、助教授、東京工業大学大学院准教授を経て2015年より現職。 専門は国際関係論、地球システム・ガバナンス。 SDGs策定過程から国連におけるSDGs設定に参画。 SDGs研究の第一人者であり、研究と実践の両立を図っている。 日本政府持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議委員、内閣府自治体SDGs推進評価・調査検討会委員、 環境省持続可能な開発目標(SDGs)ステークホルダーズ・ミーティング構成員などを兼任。 2019年9月に「SDGs白書2019」(インプレスR&D)を出版した。