◎市立病院 信頼され選ばれる地域中核病院へ  市立病院が新しく建て替えられて今年で6年、昨年7月に熊井新病院長が就任し、約半年がたちました。  今号では、市医師会会長・牛尾正孝氏をお迎えし、市長及び熊井市立病院長と、日野市を取り巻く地域医療や救急医療について、ま た目まぐるしく変わる医療制度についてお話をいただきました。(市長公室広報担当) ■市立病院の機能発揮のためかかりつけ医からの紹介受診を 市長 医療制度が変わる中、自治体病院は苦しい経営を迫られています。  また、総務省が公立病院の改革懇談会を立ち上げ、指針が示されました。そこで、自治体病院とはいえ、あまり赤字が多い場合はよ り厳しい指導をするとされています。  市立病院長に熊井先生が就任されたのを機に、市も一丸となって病院を支えますが、市民の皆様にお願いしたいことをこの広報を通 じお知らせするため、今回の座談会の運びになりました。市医師会長・牛尾先生、熊井院長よろしくお願いします。 熊井 就任から約半年が過ぎ、病院の様子、患者様の状態が把握出来てきました。  全国的に医師・看護師不足の問題がありますが、当市立病院も状況は同じです。現在、市立病院は毎日800から900人の外来の患者様 が来院しています。医師・看護師不足の現状では、外来患者様の診療で病院のパワーはかなり消耗してしまっています。  つまり、市立病院は高度で専門的な医療を提供する中核病院として位置付けられていますが、その機能が十分に発揮出来ていないの が現状です。  私はこの問題の解消のため、第一に医師不足、特に内科医の補充を重点に置いています。昨年中に、消化器内科医を迎えることがで きましたし、今春には複数の医師の増員を実現し、病院の体力を増強したいと考えています。  第二に、地域の医院・診療所との連携を強化し、かかりつけ医からの紹介で診療を受けていただく紹介受診のシステムを定着させた いと思っています。  一方、市立病院で症状が安定された方には、逆紹介という形で地域の医院・診療所に戻り診療を受けていただくことで、ぜひ、市民 の皆様には病院の機能を使い分けて受診していただきたいと思っています。 ■市立病院とかかりつけ医の連携強化で、医師不足のカバーを 牛尾 入院や精密検査が必要な患者様が私ども開業医を受診された場合、紹介病院が少ないというのは大変深刻な問題であり、中核病 院の機能を持っている市立病院には、入院を要する重篤なケースについて、患者様の迅速な受け入れをしていただきたいと思っていま す。  市立病院に医師の人員や医療スタッフが足りないことは私も重大な問題だと思います。大腸がん、前立腺がん、肺がん、C型肝炎等 が増加していますので、その診断治療を行う医師の確保は重要と考えています。  さらに、外来患者様が多いために救急や時間外の急患を診てもらいにくい現状があります。特に内科の先生は、人数が少なく入院患 者様を診察する十分な余裕がないと思います。  医師会では、市立病院の外来患者数を減らすために市立病院と医院・診療所のかかりつけ医の連携強化が重要だと考えています。そ のためには、市立病院の地域医療連携室の役割が大変重要です。  また、医師会では平日準夜こども応急診療所を開設しておりますが、重症児が受診された場合、近隣に入院させていただける病院が 少ない事が問題となっています。夜間の診療は市立病院単独では無理と思います。他市の病院と連携し、交代で当番病院を確保すべき 時期が来ていると思います。 熊井 そうですね。小児科、産婦人科の医師不足は、もう一病院で解決出来ないところに来ています。これらの診療科目には女性医師 が多いのですが、子育て中で休職をしている女性医師に日中の外来や夜間の電話相談をお願いし、常勤医師には入院患者様の対応が出 来ればと考えています。 ■市立病院の経営安定のため、入院患者様の紹介率を高める 市長 市立病院の機能を発揮するためには、緊急な場合を除き、かかりつけ医から市立病院を紹介いただいて来院していただく必要が あります。そのルートや役割分担を確立しなくてはいけないと思います。  市からもそのあたりを市民の皆様にお願いしなくてはいけないと思っています。 熊井 私たちも、中核病院の機能を発揮するためには、入院患者様の治療にパワーを向けたいと思っています。そのためには、現在外 来患者様の紹介率が30パーセント弱ですが、目標では、この数値を50パーセントに上げたいと思っています。  それには、市立病院に直接外来にいらっしゃる患者様にはご迷惑をおかけすることになると思いますが、ご理解いただきたいと思っ ています。 牛尾 私ども医師会も少なくとも市立病院の紹介率は30パーセント以上になるべきだと思っています。  市内の医療機関からの紹介患者様を市立病院で検査し、その結果を知らせてもらうシステムをもっと活用する必要があります。特に CTやMRIなどの検査は市内の開業医にそのシステムを活用してもらえば、紹介率ももっと上がると考えます。 市長 市立病院は町立病院からの古い伝統があり、来院された患者様すべてを診なくてはいけないという考えが病院側にも、市民の皆 様にもあるように思います。そのあたりの考え方を変えていただかなくてはと思います。 牛尾 医療制度が変わり、外来患者様の診療に力を向けていると病院の収益がどんどん下がっていってしまう現状がある…。そのシス テムをまだ、市民の皆様に理解していただけていない現実があります。  市立病院のような病院は、入院患者様を中心に診療を行わないと病院の経営がうまくいかない現状があります。どんどん赤字が累積 していくと市立病院がつぶれてしまいます。これを防がなくてはいけないと思います。 ■救急施設としての市立病院、これも大きな役割 市長 私が市長に就任した平成9年、市立病院を建て替えなければいけないという議論と、病院建設は難しいという議論があり決断に は大変苦慮しました。  そのとき、なぜ日野市が市立病院を持つのかという一番のポイントは、「大災害の際に日野市民を守る拠点として市立病院が必要だ 」ということでした。原点はそこにあるということを皆様に分かっていただきたいと思っています。これは経営を超えた重要な視点だ と思っています。 熊井 救急施設としての市立病院、これも大きな役割だと思っています。赴任して、医療安全対策面を充実させるため医療安全管理室 を設けました。現在、感染症対策、リスクマネジメント対策を整えている段階です。また災害医療対策訓練も院内で行っており、万一 の災害に備えています。  感染症の対策ですが、新型インフルエンザが近い将来問題となる危険性があります。多摩地域の病院、警察、保健所、消防署などと 連携した対策がすでに始まっているところです。これは病院の採算とは切り離したところで早急に態勢を整えなくてはと考えています。 牛尾 今問題にされているのがH5N1というインフルエンザですが、海外で発生したものが、飛行機で移動する時代ですから、またた く間に日本に入り、免疫がないため爆発的に流行してしまうかもしれない危険をはらんでいます。流行してしまうと抑えることは難し いとされています。その対策は急務です。 市長 市の健診などをはじめとする健康行政についても、医師会にはすでに大変なご協力をいただき感謝しています。今後も支援して いただきたいと思います。  市立病院は、公開講座などで病気予防のPRを行っていますが、ぜひ、病院以外の場所でも積極的に活動してもらいたいところです。 ■病院の経営健全化のためにまず医師の確保を 熊井 病院の経営健全化に最も効果的なことは医師・看護師の補充です。医療スタッフが充足しますと機能的かつ高度な診療が可能に なります。その結果、医療の単価が上がり、それが経営改善に直結していくわけです。  今後、どのような方法で人員を確保していくかですが、私は、市立病院に赴任する前30年間、慶應義塾大学病院におりました。その ルートから医師確保の方策を探っています。  看護師は、今年おそらく退職者と採用者では採用者の方が多くなると思います。  人員不足の解消が院長としての最大の仕事と思っています。 市長 私が市長に就任した頃、市立病院の人事は大学病院の医局に一任でした。  最近は、こちらから大学病院にお願いや申し入れをすることが多くなりました。もう少し早くそのような対応をしていれば良かった かと思いますが、今回、熊井院長の新しい体制となって、市職員全体が病院を良くしていこうという機運が高まってきました。まだま だ厳しい面がありますが、良い方向に向かっていくと思います。 冒頭にも言いましたが、総務省から自治体病院に対する指導が厳し くなり、明確な数値目標を持ちなさいと指示が来ています。国や都はその数値に向け、頑張っている病院は応援しますが、そうでない 病院は違う方法を考えなさいということです。  市も、市立病院の存在意義を考え存続に向け努力をしなくてはいけないと思っています。  具体的な数値目標を挙げれば、病床利用率を単年度黒字が見込まれる80パーセント以上にしたいと思っています。  また、人件費問題解消のため、医師の給与体系を見直しました。一生懸命に働いていただく先生にはそれなりに給料に反映する形に しました。夜間や救急などの手当を厚くするなどです。しかし、全体の人件費は抑える努力をしています。 ■膨らんでいる赤字を抑えるため病床利用率を83パーセントに 熊井 総務省からのガイドラインで病床利用率の数値を3年間で70パーセント以上をクリアしなさいと指導されています。  病院の累積赤字の件ですが83パーセントの病床利用率で単年度黒字化が出来る試算です。直近の目標として病床利用率83パーセント を掲げています。そうすれば赤字拡大を抑えることが出来る、それを当面の目標としています。 市長 今後は、市立病院を含めた連結決算を見た上で日野市の財政はどうかという判断になります。  市立病院の建て替えを決断した者として、市立病院をぜひとも維持し続けたいと思っています。市民の皆様にもご理解いただきたい ところです。  まだまだ課題はたくさんありますがひとつずつ改善し、前進したいと思います。 牛尾 医師会としても市立病院の経営を安定させるため、また本来の機能を発揮させるため、市立病院との連携を強めたいと思ってい ます。  熊井 私たちも、地域の医院・診療所とコミュニケーションを深め連携をし、病院の機能を発揮したいと思っています。 市長 本日はありがとうございました。 牛尾・熊井 ありがとうございました。 ●(社)日野市医師会長 牛尾正孝(うしお まさたか)昭和21年生まれ。昭和46年東京医科大学医学部を卒業。昭和50年東京医科 大学小児科助手、東京医科大学小児科講師を経て、平成元年から平山6丁目に牛尾医院を開業。平成17年から(社)日野市医師会長に 就任。専門は、小児科学(ウィルス感染症)。 ●市立病院長  熊井浩一郎(くまいこういちろう)昭和17年生まれ。昭和42年慶應義塾大学医学部卒業。平成13年慶應義塾大学病 院内視鏡センター長、慶應大学医学部教授を経て、平成19年7月から日野市立病院長を務める。専門は、消化器外科学、消化器内視鏡 学。 日野市立病院 プロフィール 診療科(16科) 内科、循環器科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビ リテーション科、精神神経科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科 平成17年1月(財)日本医療機能評価機構から認定病院として認定病床数 300床 医師及び看護職員数※数字は2月1日現在の実働数医師40人(計画定数は52人)看護職員166人(計画定数は193人) 所在地 日野市多摩平4丁目3番地の1